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トレーニング必要性 目標
2018/11/08
身体活動量が多い者や、運動をよく行っている者は、総死亡、虚血性心疾患、高血圧、糖尿病、肥満、骨粗鬆症、結腸がんなどの罹患率や死亡率が低いこと、また、身体活動や運動が、メンタルヘルスや生活の質の改善に効果をもたらすことが認められている。更に高齢者においても歩行など日常生活における身体活動が、寝たきりや死亡を減少させる効果のあることが示されている1,2,4,5)。
生活習慣病の予防などの効果は、身体活動量(「身体活動の強さ」×「行った時間」の合計)の増加に従って上昇する3)。長期的には10分程度の歩行を1日に数回行なう程度でも健康上の効果が期待できる。家事、庭仕事、通勤のための歩行などの日常生活活動、余暇に行なう趣味・レジャー活動や運動・スポーツなど、全ての身体活動が健康に欠かせないものと考えられるようになっている。
我が国においては、身体活動・運動についての長期にわたる時系列的な調査は少ないが、家事や仕事の自動化、交通手段の発達により身体活動量が低下してきたことは明らかであり、食生活の変化とともに、近年の生活習慣病増加の一因となっている。
身体活動や運動の健康に対する効果についての知識は国民の間に普及しつつあるものの、運動を実際に行っている者の割合は少ない。多くの人が無理なく日常生活の中で運動を実施する方法の提供や環境をつくることが求められる。
2.基本方針
国民の身体活動や運動についての意識や態度を向上させ、身体活動量を増加させることを目標とする。
身体活動・運動の推進のために、日常生活における身体活動に対する認識・態度、1日の歩数、運動習慣を有する者について、その現状を把握し、それに基づいた数値目標を設定する。 3.現状と目標
(1)成人における現状と目標
ア 身体活動・運動に対する意識の向上
身体活動量を増やすためには、状況に応じて、通勤・買い物で歩くこと、階段を上がること、運動・スポーツを行なうことなど身体を動かすことを日常生活に取り入れることが必要である。この実践のためには、前段階として身体活動や運動に対する意識の向上が必要である。
平成8年保健福祉動向調査によると「日頃から日常生活の中で、健康の維持・増進のために意識的に体を動かすなどの運動をしている」人が、男性 52.6%、女性 52.8%となっており、これは、身体活動・運動の実践とともに、「できるだけこころがけている」といった、身体活動・運動に対する意識を示している。
身体活動・運動に対する意識が向上して、日常生活の中に身体活動を取り入れる人が増加すること目指し、男性、女性ともさらに10%の増加を目標とする。
○身体活動・運動に対する意識についての目標「日頃から日常生活の中で、健康の維持・増進のために意識的に体を動かすなどの運動をしている人」の増加目標値:男性女性とも63%基準値:男性 52.6%、女性 52.8% (平成8年保健福祉動向調査)
イ 日常生活における歩数の増加
日常生活において身体活動量を増やす具体的な手段は、歩行を中心とした身体活動を増加させるように心掛けることである。健康増進関連機器の中で、歩数計を実際に使用している者は20歳以上の16.7%を占め、特に中高年者では3~4人に1人が使用しており(平成8年度健康づくりに関する意識調査)、個人が取り組む目安としても、歩数の目標値を設定することは有用である。
身体活動量と死亡率などとの関連をみた疫学的研究の結果6)からは、「1日1万歩」の歩数を確保することが理想と考えられる(注)。日本人の歩数の現状では、1日平均で、男性8,202歩、女性7,282歩であり、1日1万歩以上歩いている者は男性29.2%、女性21.8%である(平成9年度国民栄養調査)。最近10年間の歩数の増加傾向を考慮して、当面10年間の目標として、男女とも歩数の1,000歩増加を目指し、1日平均歩数を男性9,200歩、女性8,300歩程度を目標とする。1,000歩は約10分の歩行で得られる歩数であり、距離としては600?700mに相当する。その結果1日1万歩以上歩く者は男性37%、女性30%になると見込まれる。
歩くことを中心とした身体活動を増加させることにより、生活習慣病の発症の数%減少が期待できる(参考資料)。
(注)1日1万歩の根拠
海外の文献から週当たり2000kcal(1日当たり約300kcal)以上のエネルギー消費に相当する身体活動が推奨されている6)。歩行時のエネルギー消費量を求めるためのアメリカスポーツ医学協会が提示する式を用いて、体重60kgの者が、時速4km(分速70m)、歩幅70cm、で10分歩く(700m、1000歩)場合を計算すると、消費エネルギーは30kcalとなる。つまり1日当たり300kcalのエネルギー消費は、1万歩に相当する。
歩行時のエネルギー消費量を求めるためのアメリカスポーツ医学協会が提示する式11)
水平歩行時の推定酸素摂取量(ml/kg/分)=安静時酸素摂取量(3.5ml/kg/分)+0.1×分速(m/分)
この式によれば、体重60kgの者が、分速70mで10分間歩くと、6300mlの酸素を摂取することとなる。これに「酸素1リットル当たりのエネルギー消費量=5kcal」の関係を当てはめると、約30kcalのエネルギー消費量に相当することが求められる。
○日常生活における歩数の増加
目標値:男性9,200歩、女性8,300歩
注)1日当たり平均歩数で1,000歩、歩く時間で10分、歩行距離で600?700m程度の増加に相当
基準値:男性8,202歩、女性7,282歩(平成9年度国民栄養調査)
ウ 運動習慣者の増加
運動は、余暇時間に行なうものであり、疾病を予防し、活動的な生活を送る基礎となる体力を増加させるための基本的な身体活動である。爽快感や楽しさを伴うものであり、積極的な行動として勧められる。
運動習慣は頻度、時間、強度、期間の4要素から定義されるものであるが、国民栄養調査では運動習慣者を「週2回以上、1回30分以上、1年以上、運動をしている者」としており、男性の28.6%、女性の24.6%である(平成9年度国民栄養調査)。最近の運動習慣者の増加傾向から、この頻度を10%増加を目指す。
強度としては、一般に中等度の運動が勧められる。自覚的には「息が少しはずむ」程度(具体的には「健康づくりのための運動所要量策定検討委員会報告(平成元年)」参照)である。
これまで運動経験のない人が、急に運動を始めようとすると心臓事故や整形外科的障害を起こす可能性もあるので、自分の健康状態をよく把握した上で行なう必要がある。
○運動習慣者の増加
目標値:男性39%、女性35%
基準値:男性28.6%、女性24.6%(平成9年度国民栄養調査)
注)運動習慣者:1回30分以上の運動を、週2回以上実施し、1年以上持続している人
エ 女性における現状
女性における身体活動と健康との関連は基本的には男性と同じであるが、妊娠・出産、育児など女性特有の要因に加え、現状では介護の負担など身体活動が低下する社会的要因があり注意が払われるべきである。中高年の女性に多い健康問題として、骨粗鬆症と身体活動量との関連が示されている。身体活動の状況をみると、どの年代でも運動習慣率や1日の歩数において男性より低い傾向があり(国民栄養調査)、この点からも女性の身体活動量に対する取り組みが求められる。